海外のロングスティ先というとすぐに思い浮かぶオーストラリア、カナダ、ハワイ(米国)、ニュージーランド、スペインといった欧米諸国から、最近はアジア、とりわけ日本に近い「東南アジア」にも目が向くようになってきました。しかし、その視点はややもするとまだ日本人だけの見方である事が少なくありません。今回はそのことを医療を中心に具体例でとりあげてみましょう。
タイ、マレーシアやベトナム、時にニーズといわれる国・地域までをも総称して、 私たちはしばしば「東南アジア」と呼びます。しかし地図をひらくまでもなく、これらの国々は「東南」にはありません。日本からは主に南西に位置していると言うべきでしょう。この東南アジアという言葉が最初に使われたのはアメリカ人牧師、ハワード・マルコームの著書「トラベルズ・イン・サウスイースタンアジア(東南アジアへの旅)」に拠ると言われていますが、西側特に英国などからの視点と言えます。 最近になってロングスティ先としても注目を浴びるようになってきたこれらの地域には、確かに物価は安いし、治安も比較的安定しているようだが、文化や医療水準はどうなんだろうか、という声をしばしば耳にします。
こうした見方に対する1つの回答をベトナムの例で説明してみましょう。 今年(2005年)4月30日、ベトナムはサイゴン陥落、ベトナム統一30周年を 迎えてにぎわっていました。ちょうどその頃、私の旧い知人で、ハノイに単身赴任している風間賢雄氏が現地で突然、心筋梗塞に襲われ、フレンチホスピタルという病院で緊急措置を受け危うく一命をとりとめました。彼は、5月の連休明け、念の為、日本の専門病院で見てもらうべく、一時帰国しました。彼が受診したのは、日本の心臓外科界をリードしてきた東京女子医大付属榊原記念病院の名誉院長で、現在三井新宿クリニックの 院長を勤める小船井先生でした。診察の後、小船井院長は、風間氏がハノイの病院から持ち帰ったカルテ、心電図、エコー、薬剤や冠状動脈に装置してあるステントと呼ぶ管網状の金属拡張装具について、その技術の高さに驚いたと言います。ステントというのは、これまでの心筋梗塞治療の中心であるバイパス手術やバルーンと呼ぶ風船状の装置にかわって近年急速に普及してきた先端技術ですが、血栓を除去し、血管を広げても2〜3割の確立で再狭窄(さいきょうさく)が起きるという問題がありました。これを防いだのが、「薬剤溶出ステント」で免疫抑制剤、抗がん剤などのタイプがあります。この療法により欧米では再狭窄の発生率が5%前後にまで低下したと言われています。風間氏に使用されたものはサイファーステントと呼ぶ2年程前アメリカで許可された抗血漿凝固剤入りのタイプのもので、日本では厚生労働省の認可がまだおりていない薬も使用されているとのことです。ステントの装着、その後の装置も含め、ベトナムの医療技術のレベルの高さを、日本の最高権威が認めたという訳です。 私は、こうした高い医療現場を是非この目で確認したいと思い、6月13日、ハノイのフレンチホスピタルに風間氏の主治医であるトウイット・ミン博士を訪ねました。突然の訪問でしたが、私が風間氏の知人で、拙著「年金&ロングスティ・海外生活」を書くにあたり、同氏からも助言を受けた事などを告げると、女性らしい優しい笑顔を見せながらカルテを持ってきて心電図の波形などについても説明してくれました。そして、特に気負う事もなく、「ミスター風間は当病院に来られてラッキーでした。」とニッコリと話されました。ミン博士は米国にも2回留学経験があり、こうした手術はフランス人医師などとも連携しながら実施しているとの事でした。 ちなみに、同病院はベトナム人医師25名、看護師72名、医療スタッフ約100名の他、フランス人医師も数多く常駐しているフランスとベトナムの合併法人です。 かつて、私自身、同じベトナムのホーチミン市(旧サイゴン)で、簡単な健康診断を受けた事がありますが、その設備、システムは日本のそれと変わらないもので、もちろん注射器、針なども、1回限りのものでした。
医療に関してもう1つ例をあげましょう。ある医療水準比較で、世界1はタイという結果が出ています。その時、日本は7番目でした。例年、世界のホテルランキングでタイのオリエンタルホテルが指定席のようにトップに輝くのと同じ構図かもしれません。ちなみに日本のホテルでは、御三家といわれる東京の高級ホテルの一つが時々ベストテンに入るか否かという状況です。 この他、保険診療と保険外診療(自由診療)を併用する「混合診療」が認められていない我が国の現状から、先端医療や未承認薬を受けるべくマレーシアやタイの病院に出かける人がいることなどを考え併せると、私たちの「東南アジア」観も見直すべき時期にきているのではないでしょうか。 もちろんこれが全ての水準という訳ではありませんし、まだまだの部分が少なくない事も現実でしょう。少し前まで、東南アジアというとジャングルや腰蓑(こしみの)を想像する人も珍しくなかったと聞きます。戦前の「南洋」や冒険ダン吉の世界につながるようなイメージまではないにしても、私達の中に文化的偏見があったとするならば、それは改めると共に、日本も含めたもう少し広い地球をさす言葉としての「東アジア」への認識を深める必要がありそうです。 今や急速に発展しつつある東アジアですが、同時にこれらの国々では今、ロングスティをめぐっての詐欺まがいのトラブルも発生してきています。 次回はアジア・トラブル編をとりあげます。